
タイヤチェーンは古い装備? という疑問は、スタッドレスタイヤやオールシーズンタイヤが当たり前になった今だからこそ、感じる人が居るかと。チェーンは一昔前の装備、使わなくなった道具というイメージを持たれがちです。
実際、チェーンを自分で装着したことがないという人も年々増えています。しかし結論から言えば、チェーンは決して過去の遺物ではありません。現在の道路事情や気象条件を踏まえると、今もはっきりとした役割と必要性を持つ装備だと言えます。
まず、なぜチェーンが古い装備だと思われるようになったのかを考えると、その大きな理由はスタッドレスの進化にあります。
近年のスタッドレスは、雪道や凍結路でのグリップ性能が大きく向上しているだけでなく、雨の日の安定性や乾いた路面での静かさ、乗り心地まで高いレベルで両立するようになりました。
その為、都市部の冬道であれば、スタッドレスさえ履いていれば問題なく走れる場面がほとんどになっています。
この状況が、昔は必要だったけれど、今は使わないものというチェーンのイメージに繋がっています。加えて、装着に手間がかかることや、走行中の振動、速度制限といった不便さも、チェーンが敬遠される理由になっています。
一方で、最近の状況を冷静に見ると、チェーンの価値はむしろ見直されています。その背景にあるのが、異常気象による大雪や急激な路面変化です。
これまであまり雪が降らなかった地域でも、短時間で一気に雪が積もったり、路面が凍結したりするケースが増えています。こうした状況では、どれだけ性能の高いスタッドレスでも対応しきれないことがあります。
更に重要なのが、法規制や交通管理の面です。日本では、山間部の道路や豪雪地帯を中心に「チェーン規制」が実施されることがあります。これは、スタッドレスを装着していても、チェーンを付けていなければ通行出来ないという規制です。
この背景には、スタッドレスを履いていたにもかかわらずクルマが立ち往生し、道路全体が大渋滞や通行止めになった過去の反省があります。つまり、チェーンは単に走行性能を高める装備ではなく、その道を通れるかどうかを左右する存在になっているのです。この点を知らずにいると、いざというときに前にも後ろにも進めない状況に陥る可能性があります。
最新のチェーン事情を見ると、古い装備という印象とは逆に、製品そのものは大きく進化しています。従来の金属チェーンだけでなく、軽くて扱いやすい非金属チェーンや、布製のタイヤカバータイプも登場しています。
これらはコンパクトで、車内に常備していても邪魔になり難く、装着も短時間で済むよう工夫されています。昔のように、寒い中で手を汚しながら苦労して装着する必要はなくなりつつあります。
こうした進化によって、チェーンは使い難い非常用装備から、現実的に持っておける保険のような存在へと変わってきています。
では、どのような人にとってチェーンが今も必要なのかと言うと、必ずしも雪国に住んでいる人だけではありません。
冬に高速道路を利用する可能性がある人、峠道を通ることがある人、レジャーや帰省で雪山方面へ行くことがある人、普段は都市部中心の生活でも突然の大雪で移動を余儀なくされる可能性がある人にとっては、大きな安心材料になります。実際に使う場面がなくても、持っているだけで選択肢が増え、安全の余裕が大きく広がります。
チェーンは、確かに日常的に使う装備ではなくなりました。しかしそれは、不要になったという意味ではありません。スタッドレスが普及したことで役割が整理され、より厳しい状況、より重要な場面で使われる装備になったという変化だと考えると分かりやすいかと。
古いか新しいかではなく、本当に困った時に頼れるかどうかという視点で見ると、チェーンは今の時代でも十分に意味のある装備だと言えます。
