タイヤチェーン装着時は「速度」と「操作」を抑えることが安全への鍵

 タイヤチェーンを装着して走る状況は、ほとんどの場合が氷路や雪路が想定されます。見た目以上にタイヤが路面と噛み合う力が弱く、クルマの動きがいつもより不安定になりやすい場面です。

 その為、急発進や急ブレーキ、急ハンドルといった、いわゆる「急」が付く操作は避ける必要があります。もしこれを繰り返すと、クルマが意図しない方向へ滑り出したり、制動距離が大きく伸びたり、チェーンそのものへ大きな負担が掛かって寿命を縮める原因になります。

 速度についても同じで、チェーン装着時はスピードを出すほど危険が増します。メーカーは多くの場合、最大50km/h以下での走行を強く求めています。

 例えば非金属チェーンで人気の高い、カーメイト「BIATHLON Quick EASY」でも50km/h以下が厳守事項とされますし、金属チェーンのKONIG「CL MAGIC」でも制限は同様です。さらに布製タイプの「AutoSock」も制限速度は50km/hです。このようにタイプが違っても、目安速度はほぼ共通しています。

 しかし、実際に氷雪路で50km/hを出すとどう感じるかと言えば、多くの人が思ったより速く感じると気付きます。

 路面が滑りやすいだけでなく、チェーンによって振動やハンドルの反応が変わる為に、安定性が普段より低下するからです。それでも、チェーンを付けると一時的に安心感が生まれ、つい速度が上がってしまうかと。その感覚のズレこそが危険の入口でもあります。

 本来チェーンは、あくまでも緊急時に備える為の滑り止め装置です。装着すれば普段と同じ走行が出来る訳ではありません。

 更にチェーンは消耗品であり、速度を出せば出すほど摩耗が早く進みます。摩耗が進むとホールド力が弱まり、直進性が不安定になります。

 振動が増え、車が左右にふらつきやすくなり、操作への反応にも遅れが生じます。速度が高くなるほど遠心力によってチェーンがタイヤから浮き上がることも起こりやすく、ボディを傷つけたり、最悪の場合は外れて事故に繋がる危険性もあります。

 特に高速道路では注意が必要です。周囲のクルマの流れに合わせているうちに、つい速度が上がってしまうことがあります。知らず知らずのうちに制限を超えてしまう、これが最も怖いところです。

 たとえJASAA認定品のように、耐久性能が高いとされる製品であっても過信は禁物です。耐久性があるということは丁寧に使えば長持ちするという意味であり、速度を無視しても安全ということではありません。

 結局のところ、チェーン装着時のポイントは速度と操作を控えめにする、この一点に尽きます。滑りやすい路面では、クルマと路面の間で起きる物理的な関係が普段とは全く異なります。

 タイヤがしっかり噛んでいる感覚が得られたとしても、それは常に不安定さと隣り合わせの状態にあると理解すべきです。チェーンは安全を補助する為の道具であり、それ自体が安全を保証するものではありません。

 落ち着いて、ゆっくりと、確かめながら走る。これがチェーンを正しく使う上で最も大切なことです。速度を落とすことは決して遅いのではなく、安全を保っているという選択になります。

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