
スタッドレスタイヤを走行距離で選ぶべきか、使用年数で選ぶべきかという迷いは、実はどちらか一方だけで判断すると失敗しやすく、両方を同時に考える必要があります。
但し、重要度には明確な優先順位があり、結論から言うと、走行距離よりも使用年数の影響をはるかに強く受けます。
まず走行距離についてですが、スタッドレスは夏タイヤと比べると、一般的に摩耗量が性能低下の直接原因になり難いという特徴があります。雪や氷の上では、トレッドゴムが削れて減ることよりも、ゴムがどれだけ柔らかく、路面の微細な凹凸に密着出来るかが重要だからです。
新品時に8~10mm程度ある溝が、残り溝5mm前後まで減ったとしても、ゴムが柔らかく保たれていれば、ある程度の雪道性能は維持されます。実際、年間走行距離が少ない人の場合、5年使っても走行距離は1万km以下というケースも珍しくなく、距離だけを見るとまだまだ使えそうに見えてしまいます。
しかし、ここで決定的に効いてくるのが使用年数です。スタッドレスのゴムは、使っていなくても時間とともに確実に劣化します。原因は酸化、紫外線、温度変化などで、これらによってゴムは徐々に硬化していきます。
スタッドレスは低温でも柔らかさを保つ特殊なゴムを最大の武器にしていますが、その柔らかさこそが年数劣化によって最も失われやすい性能なのです。溝が十分に残っていても、ゴムが硬くなれば、氷上でのグリップ力は新品時とは比べものにならないほど低下します。
新品のスタッドレスでは、主に氷の表面に出来るごく薄い水膜をゴムが吸水し、細かなエッジが噛み合うことで制動力を生み出します。しかしゴムが硬化すると、水膜を吸水出来ず、エッジも氷に食い込まず、結果としてブレーキが効かない、発進で空転するという状態になります。雪道ではまだ違いを感じ難くても、アイスバーンでは年数の差がそのまま危険度の差になります。
その為に、一般的な目安として、スタッドレスは製造から3年程度までは性能低下が比較的穏やか、4年目以降から徐々に劣化を体感しやすくなり、5年を超えると溝が残っていても本来のスタッドレス性能は期待し難いとされています。
保管状況も使用年数の影響を増幅させます。直射日光が当たる場所、夏場に高温になる倉庫やベランダ、空気を抜かずに縦置きしたまま長期間放置すると、ゴムの硬化はさらに進みます。
逆に、冷暗所で適切に保管されていても、ゴムの経年変化そのものは止められません。つまり、どれだけ丁寧に扱っても、スタッドレスには明確な時間の寿命が存在するということです。
スタッドレスの判断基準は、まず使用年数を最優先に考え、その上で走行距離と残り溝を確認するのが正解です。
距離が少なく溝が深くても、製造から5年以上経過していれば、性能的には新品の半分以下になっている可能性があります。一方で、3年以内でゴムが柔らかく、残り溝も十分にあるのなら、多少距離を走っていても実用上の問題はほとんどありません。
