
1990年代から現代までのスタッドレスタイヤCMは、単なる広告の枠を超えて、冬のクルマ文化そのものの変化を映してきました。時代が進むごとに表現スタイルや強調点が大きく変わり、まるでドキュメンタリーのように技術進化とユーザー意識の移り変わりを語っています。
1990年代はスタッドレスが登場してからまだ日が浅く、ほとんどのユーザーが本当に滑らないのか、という疑問を抱いていた時代でした。
その為にCMでは性能のインパクトを優先し、氷上で急ブレーキをかけてもピタッと止まる姿や、凍った坂道を力強く登っていくシーンが連続で映し出され、ナレーションも科学実験を思わせる説得力重視の語り口が多く使われていました。
ブリヂストンが「BLIZZAK」を前面に押し出し、ヨコハマが「iceGUARD」を広め始めたことで、メーカー同士が氷上性能の高さを競い合うようになり、CM全体が技術合戦のような雰囲気をまとっていたのがこの年代の特徴です。
2000年代に入ると、性能が向上してユーザーの信頼が深まり、本当に求められているのは日常で安心して走れることだという視点が浸透していきました。
この頃のCMは、雪道の生活シーンを自然に描く構成が増え、雪国の住宅街を家族連れのクルマがゆっくり走る映像や、通勤途中のドライバーが穏やかな表情でハンドルを握る姿など、現実の冬に寄り添う柔らかさが前面に出るようになります。
技術説明は控えめになり、代わりにロングライフ性能や静粛性など、日常の快適さに繋がるポイントが丁寧に語られるようになり、CM全体の印象が穏やかに変化しました。
2010年代になると、スタッドレス性能そのものの差が小さくなったことから、技術よりも心に残るストーリーや共感を重視する流れが強まっていきました。
雪道を走る理由が家族の送り迎えだったり、仕事の為の移動だったりと、人の生活そのものが物語の中心となり、視聴者が自分の冬の経験を重ねやすい構成が多くなります。
また、俳優が落ち着いた語り口でブランドの安心感を象徴する役割を担い、映像はドラマのように自然光やリアルな路面描写が大切に扱われるようになりました。専門的な技術内容を分かりやすく伝える映像表現が確立したのもこの時期の特徴です。
2020年代に入ると、テレビCMだけで完結する時代ではなくなり、WEB限定の長尺映像やSNS向けの短いクリップが同時展開されるようになりました。この結果、表現のバリエーションが一気に広がり、映画のワンシーンのような重厚な映像美でタイヤの世界観を伝える作品も増えています。
また、環境への配慮やサステナブル素材の採用など、タイヤそのものだけではなくメーカーとしての姿勢をアピールする内容が増え、雪道性能の訴求に加えてブランド全体の価値観を示すことが大切にされるようになりました。
電気自動車が普及し始めたことで静粛性や転がり抵抗低減も重要視され、映像の空気感も未来的で静か、そして洗練された表情を見せるようになっています。
スタッドレスのCMは時代ごとに役割を変えながら、技術の進歩と社会の気分をそのまま映してきたことが分かります。
最初は、本当に滑らないのかという疑問への答えを全力で示し、その後は生活に寄り添う安心感、更に時代が進むと人の心に残る物語、そして現代ではブランドの未来への姿勢へと進化しています。
