タイヤが凍った路面で滑るのはどうして?

 タイヤは、ゴムが路面に引っかかる力で止まったり曲がったりします。乾いたアスファルトでは、路面の細かな凹凸にゴムが密着し、強い摩擦が生まれます。この摩擦があるから、ブレーキを踏めば止まり、ハンドルを切れば曲がることが出来ます。ところが、路面が氷になると、この仕組みがほとんど働かなくなります。

 氷が滑りやすい最大の理由は、氷の上に水の膜が出来るからです。氷の上を走っている時、タイヤはただ氷に乗っているだけではありません。クルマの重さがタイヤを通して一点に集中し、さらにタイヤが回転することで摩擦が発生します。

 この時、氷の表面には強い圧力とわずかな熱が同時に加わります。氷は見た目ほど頑丈ではなく、こうした条件がそろうと表面だけが一瞬で溶けてしまいます。

 この時に生まれる水は、たまり水のように目に見えるものではありません。氷の表面に、紙一枚よりもはるかに薄い水の膜が広がるイメージです。しかし、この薄い水が非常に厄介です。

 水は潤滑剤のような働きをする為、タイヤと氷の間に入り込むとゴムが直接氷に触れられなくなります。すると、摩擦は一気に弱まりタイヤは引っかかることができなくなります。

 この状態は、濡れた床の上を靴下で歩くときに似ています。床自体は平らで固いのに、水があるだけで急に滑りやすくなります。凍結路面でも同じことが起きています。

 氷の上にできた水の膜が、タイヤをツルツルと滑らせてしまうのです。その為、ブレーキを踏んでも止まらず、ハンドルを切っても進行方向が変わらない。クルマが思った通りに動かなくなります。

 特に注意が必要なのは、気温が氷点下ぎりぎりの時です。とても寒い日よりも、少し暖かい凍結路面のほうが滑りやすいと感じることがあります。これは、氷が溶けやすく、水の膜ができやすい状態だからです。見た目には同じ凍った道路でも、条件によって滑りやすさが大きく変わります。

 更に、普通のタイヤは寒さでゴムが硬くなります。ゴムが硬くなると、路面の凹凸に密着し難くなり、もともと少ない摩擦がさらに減ってしまいます。そこに水の膜が加わることで、ほとんどグリップがない状態になります。これが、凍結路面で急に滑ったと感じる正体です。

 スタッドレスタイヤは、この水の膜をできるだけ減らすために工夫されています。柔らかいゴムや細かな溝によって、水を吸ったり、押し出したりして、少しでも氷に直接触れようとします。

 それでも、水の膜を完全に無くすことは出来ません。だからこそ、どんなタイヤでも凍結路面では滑る可能性があり、スピードを落とすことが何より重要になります。

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