
タイヤのインチダウンとは何か。まず「インチ」とはホイールの直径、つまりリム径を示す単位です。例えば「195/65R15」と表記されるタイヤでは、最後の「15」がリム径、すなわちホイールのサイズを意味します。
従いインチダウンとは、タイヤの外径(タイヤ全体の高さ)は変えずに、このリム径だけを小さくすることを指します。外径が変わらないように設計される為、扁平率は高くなり、見た目にもタイヤの厚みが出るのが特徴です。
このインチダウン、単純に小さいホイールに変えれば良いというものではありません。タイヤの外径が純正と同じであること、車両に適合したホイールサイズであること、そしてロードインデックス(LI)が純正より下がらないことが基本条件です。
ロードインデックスとは、タイヤ1本が支えられる最大荷重を示すもので、これが不足していると車体重量に対してタイヤが耐え切れず、損傷や車検不適合の原因にもなります。なので、インチダウンは安全性を犠牲にしない範囲で行うことが大前提となります。
スタッドレスでは、このインチダウンが選ばれる傾向にあります。一般的に純正サイズから1インチ程度小さくするケースが多く、これにはいくつかの理由があります。
まず、タイヤ価格を抑えられること。例えば17インチから16インチへと変更するだけで、1本あたり3,000~5,000円ほど安くなることも珍しくありません。大径ホイールを採用する車が増えている近年では、この差がさらに広がる傾向にあります。
もう一つの大きな利点は、乗り心地の改善です。扁平率が上がることでタイヤのサイドウォールが厚くなり、路面からの衝撃をより吸収してくれます。これは冬道のように凹凸の多い路面では特に効果的で、ステアリング操作が軽く感じられる場合もあります。
更にスタッドレス特有のメリットとして、扁平率が高いことでタイヤが縦方向にしなやかに動き、雪や氷の上でも路面追従性が高まるという効果が期待出来ます。メーカーでも、タイヤサイドのしなりがアイスバーンでのグリップに貢献することが確認されています。また、タイヤ幅が細くなる分、雪の轍にハンドルを取られにくいというのも冬道では大きな利点です。
但し、メリットばかりではありません。デメリットとしてまず挙げられるのが外観の変化です。偏平率が高くなるとタイヤに厚みが出る為、スポーティな見た目から一転してやや落ち着いた印象になります。ホイールの面積が小さく見える分、全体的に引き締まり感が減り、地味に感じられる場合もあります。
また近年のスタッドレス技術の一部では、逆に幅が広い方がアイス性能が高いとする理論もあります。氷の上で滑る原因は、タイヤと氷の間に生じる微細な水膜であり、これをいかに除去して氷に密着するかが鍵です。接地面積の広いタイヤほど除水性能が高く、氷への密着が強まる為、単純に細ければ効くとは言えない時代になっているのも事実です。
インチダウンを行う際には、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。まず、タイヤ外径を維持すること。外径が変わるとスピードメーターに誤差が出るほか、場合によってはタイヤがフェンダーやサスペンションに干渉し、最悪の場合は車検に通らなくなる恐れがあります。
また、ホイールのマッチングも非常に重要です。オフセットやハブ径、ボルト穴のピッチなど、車種に適合していないホイールを装着すると安全上のトラブルに繋がる可能性もあります。
これらの条件をしっかり確認し、推奨される範囲内で行えば、インチダウンは経済性、快適性、そして冬の走行安定性を高める有効な選択肢となります。見た目の印象だけにとらわれず、機能面を理解して選ぶことが、真のメリットを享受するための鍵と言えるでしょう。
