
クルマの駆動方式が、FF(前輪駆動)・FR(後輪駆動)・4WD(四輪駆動)であることによって、スタッドレスタイヤ性能の感じ方や効き方は大きく変わります。タイヤ自体の性能は同じでも、駆動力がどのタイヤに伝わるか、どこに荷重が掛かっているかによって、雪道での発進・制動・コーナリングの安定性がまったく異なります。
まずFF(前輪駆動)は、エンジンやミッションなどの重いパーツが前方にあるため、自然と前輪に多くの荷重が掛かります。この構造は雪道では非常に有利で、前輪がしっかりと地面を押さえつけることで、発進や上り坂での駆動力を確保しやすくなります。
前輪が駆動と操舵の両方を担当しているので、ハンドルを切った方向にクルマを引っ張るように進み、雪道でも比較的安定して走れるのが特徴です。
例えば、停車中から雪道で発進する時も、前輪に重みがあるおかげでタイヤが滑り難く、スムーズに前進出来ます。しかし、コーナーで前輪が滑るとハンドル操作が効かなくなるアンダーステアが起きやすく、下り坂ではブレーキをかけると前輪がロックして曲がれなくなることもあります。つまりFF車は、発進には強いが急な下りやカーブでは滑りやすいという特性です。
次にFR(後輪駆動)は、駆動力を後ろのタイヤで伝える構造です。エンジンが前にあるので後輪の荷重が軽くなり、雪道では発進時に後輪が空転しやすくなります。特に上り坂では後輪がスリップして進まないことがあり、FR車が雪道で苦手とされる理由がここにあります。
但し、FRは前輪が操舵専用、後輪が駆動専用という明確な役割分担がある為に、滑り始めたときの挙動が分かりやすく、ハンドル操作やアクセルワークで姿勢をコントロールしやすいというメリットがあります。
FR車では後輪のグリップ力が命で、リアタイヤの性能が直接的に発進・安定性を左右します。
そして4WD(四輪駆動)は、4本全てのタイヤで駆動力を分担します。その為、発進や登坂では他の駆動方式に比べて圧倒的に有利です。例えば、深い雪の中でどれかのタイヤが滑っても他のタイヤがグリップして力を伝える為に、停滞し難く雪道での発進がとても安定します。
特に最近の4WDは電子制御でトルク配分を自動調整し、滑った瞬間に最適な駆動力を他のタイヤへ振り分ける為、誰でも安全に走れるのが大きな魅力です。
しかし注意すべき点は、4WDでも止まる力と曲がる力は他と同じくタイヤの性能に依存しているということです。4WDは確かに発進が得意ですが、ブレーキ時に滑れば制動距離はFFやFRと変わりません。つまり、4WDは滑らないクルマではなく滑っても前に進みやすいクルマです。
結局のところ、FF・FR・4WDのどれが雪道に最も強いかというと、一概に決めることは出来ません。
FFは発進に強く、燃費も良いため日常の雪道に適しています。FRはコントロール性が高く、慣れている人には操る楽しさがあります。4WDは総合的に安定しており、豪雪地帯や凍結の多い地域では最も頼れる存在です。
但し、どの駆動方式でもスタッドレスが劣化していれば性能は発揮出来ません。ゴムが硬化するとサイプが路面に密着出来ず、グリップが一気に落ちます。駆動方式に関係なく、柔軟性を保ったタイヤこそが安全走行の基本です。
つまり、FFは前輪を優しく操る、FRはアクセルを丁寧に扱う、4WDは過信せずブレーキを早めにかける。こうした意識とタイヤの性能が合わさって初めて、どんな路面でも安心して走ることが出来ると思います。
