冬の道路には、スタッドレスタイヤの性能を大きく左右する代表的な路面が2つあります。それが圧雪路と凍結路です。どちらも雪や氷で出来ていますが、性質もタイヤに求められる性能もまったく異なります。
圧雪路とは、積もった雪がクルマで押し固められた路面です。表面は白く滑らかですが、氷ほど硬くはなく、雪の結晶が圧縮された状態です。
主に-5℃~-15℃の低温で形成され、乾いていれば比較的グリップしやすい特徴があります。スタッドレスは、雪に噛み込むことで駆動力や制動力を得ます。トレッドブロックが雪を踏み固め、その溝に入り込んだ雪同士が摩擦することでグリップが生まれます。
その為に、圧雪性能の高いタイヤは、しっかりとしたブロック剛性と、雪を押し出しながら保持出来る形状が求められます。ブロック間の溝が広いパターンほど、雪を噛み、雪で止まる理想的な働きをします。
一方、凍結路は雪がいったん溶けて再び凍った路面で、ミラーバーンと呼ばれる透明な氷面や、水膜を伴った滑りやすい状態が代表的です。氷上では雪のような物理的な引っかかりがほとんどなく、タイヤはまったく違う原理でグリップします。
重要なのは、水膜の除去と氷への密着、そして微細な咬み付きです。氷の表面には常に薄い水膜があり、これが滑りの原因になります。スタッドレスは、吸水性や撥水性を持つ特殊ゴムでこの水膜を取り、氷と直接触れることで摩擦を得ます。
また、低温でも硬化し難いシリカ配合ゴムを使い、氷にぴったりと密着させます。細かいサイプは水膜を排出しながら氷を引っかく役割を果たしています。
このように、圧雪路では雪に食い込む物理的摩擦、凍結路では氷に張り付く化学的密着が重要です。その為、寒冷地のように圧雪が続く地域では雪踏み性能重視型が、本州など凍結と融解を繰り返す地域では氷上性能重視型が適しています。
但し、近年第5世代~第6世代のスタッドレスにかけて、雪と氷の両方で高い性能を発揮する総合型へと進化しています。吸水または発水性ゴムの改良で氷上性能を維持しながら、3Dサイプ構造によりブロックの変形を抑えて圧雪路の安定性も確保。更に新素材の導入により、-20℃近い極寒でも柔軟性を保ち、高いグリップを発揮します。
つまり、圧雪路と凍結路の違いは単なる温度差ではなく、摩擦の仕組みそのものの違いです。そして現代のスタッドレスは、この相反する条件を両立させる為に、トレッド設計とゴム素材の両面で絶えず進化を続けているのです。