
日本の冬は、世界のどの国とも異なる独特の気候と雪質を持っています。南北に長く、地域ごとに降雪量や雪の状態が大きく異なる為です。従い、単に雪に強いタイヤを選ぶだけでは安心して冬を走ることは出来ません。
その為に近年、国内メーカーだけでなく海外メーカーも日本専用設計のスタッドレスタイヤを開発するようになっています。では、なぜ日本専用設計が必要で、どのように製造されているのでしょうか。
日本の冬には、氷結した道路や圧雪路、シャーベット状など、多様な路面状況が同時に存在します。特に北海道や東北地方では、日中に溶けた雪が夜間に凍結してブラックアイスバーンやミラーバーンといった、極めて滑りやすい路面が発生します。
一方、関東や中部地方の都市部では、雪が降ってもすぐに溶けることが多く、数年に1度しか積雪にならない地域もあります。このように、地域ごとに異なる冬の道路環境に対応する為には、タイヤに高い性能が求められるのです。
海外の欧州仕様タイヤは、雪上グリップを中心に設計されています。欧州では除雪体制が整っており、融雪剤も広く使用される為、路面は比較的滑り難く、氷路やシャーベット路が長期間残ることは少ないからです。
しかし日本では、氷上での制動力や発進性能、圧雪やシャーベットでの安定性がタイヤの性能評価の重要なポイントになります。単に海外仕様のタイヤを輸入するだけでは、日本の冬に十分対応出来ないのです。
その為、多くの海外メーカーも日本専用タイヤの開発に力を入れるようになりました。基本設計は本国で行う場合もありますが、性能テストは日本国内、特に北海道で行われます。
北海道は気温が低く、雪の種類も豊富で、広大な土地がある為、タイヤ開発に最適な環境です。国内メーカーではブリヂストンの士別市にある北海道プルービンググラウンド、ヨコハマの旭川市の北海道テストセンター、住友ゴムの名寄・旭川テストコース、トーヨーのサロマテストコースなどが有名です。
これらの施設では、氷上ブレーキ性能や雪上での発進や走行安定性、シャーベット路や圧雪路でのグリップなど、あらゆる状況を再現してデータ収集が行われます。
海外メーカーも日本の施設を活用して、日本専用タイヤの性能を高めています。士別市には交通科学総合研究所が管理し運営する寒冷地技術研究会士別試験場があリます。主に自動車やタイヤ、部品メーカーの開発試験などに利用されています。
海外メーカーの日本専用設計もここを拠点に開発が行われるケースが多いかと。ミシュランなどそう、ピレリもか。ミシュランやピレリはゴム配合やトレッドパターンを日本仕様に変更し、氷上や圧雪路での走行性能を強化しています。
アジアンタイヤメーカーも、最近では日本専用コンパウンドや氷上性能を向上させる技術を導入し、国内メーカーの中位モデルに匹敵する性能を実現しています。このように、日本市場では国内・海外メーカーともに、北海道を中心とした開発やテスト体制が不可欠となっているのです。
更に日本専用タイヤは、氷雪路だけでなくドライ路面での高速走行性能や燃費性能、静粛性なども考慮されています。これにより、氷上グリップ、雪上グリップ、シャーベット路での安定性、ドライ性能や低燃費を高い次元で両立させた製品が生まれています。単に雪道に強いというだけではなく、日本の冬を徹底的に分析し、その条件に最適化されたタイヤ設計が実現されているのです。
日本専用スタッドレスは、単なる販売戦略ではなく、日本の冬を科学的に解析し、氷上や雪上での安心と安全な走行を実現するための必須アイテムです。北海道を中心とした開発やテスト体制により、国内メーカーはもちろん海外メーカーも日本市場に適したタイヤを提供出来るようになり、ユーザーにとって選択肢が広がっています。
